今月の人 生き甲斐をもち輝き続ける素敵な人をご紹介  No.87

ダメージヘアに職人肌で向き合い、美髪と笑顔を取り戻す
  ■プロフィール

矯正屋 オーナー/美容師
羽曳野市在住
辻 和典さん(昭和40年生まれ)

16歳のときに美容師見習いとして美容室で働き始める。25歳で独立し、八尾市に美容室をオープン。99年に藤井寺市に移転し、縮毛矯正専門サロン「レイジーガス」として再出発。06年から店名を「矯正屋」に。美容師生活27年間で延べ1万人以上を担当。「お客さんとの信頼関係を構築し、気持ちよくお付き合いすること」がモットー。

■16歳で美容師の道へいつしか「縮毛矯正」の専門家に
 近鉄藤井寺駅から徒歩3分の場所に、縮毛矯正を専門とする美容室がある。お店の名前はずばり「矯正屋」。他の美容室で「まっすぐに伸ばすのは技術的に難しい」と言われた人も噂を聞きつけてやって来る、「縮毛矯正」では知る人ぞ知る実力店なのだ。
 その「矯正屋」のオーナー兼美容師が辻和典さん。お客さんと会話するのが大好きという、とっても親しみやすい朗らかな人だ。その辻さんが美容師の道へと歩み始めたのは、16歳のとき。
「特に美容師になりたいという強い希望があったわけではないんですよ。当時は美容室と散髪屋の違いも分からなかったぐらいですから。でも、知り合いから話を聞いているうちに、段々と興味を抱き始めて美容室に就職。心からこの仕事が楽しいと思えたのは、それから2、3年後のことだったかな」
 その後、いくつかお店を変わりながら腕を磨いていき、20代前半に勤めた美容室で、美容師人生に大きな影響を与えた店長と出会うことになる。
「毛髪化学にすごく詳しい店長で、薬剤と髪質の関係について深く学ぶことができました。それにこのお店は、当時はメニューに加えているお店が少なかった縮毛矯正も取り入れていたんです。僕も興味のあることだったし、とても勉強になりましたね」
 そのようにして毛髪化学についての理解を深めた辻さんは、25歳のときに独立。最初は八尾市で店を構えた。25歳という若さでの独立に驚いてしまうが、辻さん自身は「バブルの時代ですから、当時はそんなに早いという感覚ではなかったですよ」とサラリ。その約5年後に藤井寺市に店舗を移転したものの、美容室が非常に多い激戦区だったため、最初は集客に苦戦したという。
「だからといって、集客のために料金を下げるということはしたくなかったんです。美容師としての経験に自信を持っていたし、値段ではなく技術で勝負がしたくて」
 そこで辻さんが決意したのは、縮毛矯正をメインメニューにし、他の美容室と差別化を図るということ。縮毛矯正は得意な施術だということに加え、流行の移り変わりの激しいヘアデザインの追求とは異なり、経験が生きてくる施術だというところも自分に合っていると感じていたという。そうして、縮毛矯正を専門にした美容師として、新たな一歩を踏み出した。

■技術力が口コミで広がり東京や福岡からも予約が入る
「矯正屋」では、「完全返金保証制度」と「1日最大3名までの完全予約制」という制度を取り入れている。
「経営的にも厳しくなるし、導入時には周りからの反対も多かったですね。でも僕は納得してもらってないのにお金を頂くなんてできなくて。料金というのは、依頼された内容を達成することへの対価だと思うんです。だから満足してもらえない場合は3ヵ月後でも1年後でもやり直ししますし、それでも思うような髪にならなかった場合は返金します」
 また、1日の予約人数を制限しているのは、最初から最後の工程まで辻さん一人が付きっ切りで施術をするためだ。ヘアカラーや特殊パーマで髪のダメージが複雑化している今、髪の状態を見極めて薬剤を選び、薬剤の量や浸透具合の調整も細やかさが欠かせない。
「途中で誰かに任せることはしないし、複数のお客様に同時進行で対応するということもしません。これまで約一万人の髪を見てきたからこそ髪の状態や薬剤との相性を判断できるんです。縮毛矯正というのは経験からしか分からないことも多いんですよ」
 どちらも、自身の行う施術に強いこだわりを持つからこそ掲げられる制度。そして、実際に高い技術力があるからこそ継続できるのだろう。
「今度、千葉からお客さんが来るんです」と、辻さんはこともなげにそう言う。聞いてみると、福岡や岐阜、岡山など、他府県からはるばるやってくるリピーターも多いのだとか。美容室は各地にあるにもかかわらず、なぜ大阪にあるこのお店に?
「よく他の美容室との違いは何かと聞かれるんですが、僕はただ、お客さんの髪の状態を見極めて最善のことをしているだけ。何も特異なことはしていません。遠方から来られる方をはじめ、僕の店に来られるのは髪のダメージが大きな方がほとんど。各地からわざわざお客さんが来てくれるのは本当に光栄。同時に、絶対に髪をまっすぐにしてみせるぞと僕の気持ちも高ぶりますね」
 この仕事をしていて一番うれしいことは、「髪の毛にコンプレックスを持っていた方が、帰る時にはまっすぐに伸びた髪を見て喜んでくれること」だそう。喜びのメールや手紙が届いたときは、美容師になって本当によかったと感激してしまうという。そんな辻さんの今後の夢を聞くと、
「今は1店舗だけですが、今後12年間で30店舗に増やしたいですね。そして、ダメージヘアや癖毛に悩んでいる人たちが笑顔になるのをもっともっと見たいですね」
 かたくななまでの職人肌で仕事に取り組む辻さんを見ると、遠方からも多くの人が来店することが不思議ではないと思えた。
(聞き手 松岡理絵)