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美術品店「藤美堂」 代表 藤本和馬さん no.202

今月の人
美術品や骨董品を、誠実かつ正確に無料鑑定。大切なものの橋渡し、お手伝いできることが喜び
美術品店「藤美堂」 代表
藤本和馬さん
1978年、富田林市生まれ。藤井寺市在住。株式会社リクルート勤務を経て、美術品商の道へ。2018年、藤美堂を開店。趣味はアウトドア全般、庭の手入れ、キックボクシング。
藤本和馬さん

富田林駅前に店舗をオープン。逸品が並び、まるで小さな美術館

 

 近鉄「富田林」の北側ロータリーから徒歩1分。取材日、建物1階のショーウィンドウに飾られていた日本画家・片岡球子の絵に思わず目を奪われる。

「歩道からも見ていただける場所なので、ここに飾る美術品は常時入れ替えています。美術品店というのは入りにくいと思われがちですが、ぜひドアを開けて一歩踏み入れてみてください。思いのほか、居心地がよいと感じていただけると思います」。そう話してくれるのは、骨董品や美術品を扱う「藤美堂」代表の藤本和馬さん。

 

 しかし、「藤美堂」はそんな不安を払拭してくれるかのような、オープンかつ清潔感のある店構え。

 

 お店に入ると千家十職の茶道具、古備前の壺、古伊万里や古九谷の皿、エミールガレの花瓶やマイセンプレートなどの西洋アンティーク、東山魁夷やシャガールなどの絵画……と、まるで小さな美術館のよう。「来る度に新しい出合いをしていただきたくて」と定期的に中身を入れ替えるという店中央のショーケースでは、北大路魯山人の逸品「伊賀花入」が気品ある存在感を放っていた。

 

「ここでは、古美術、茶道具、現代美術、絵画という広いジャンルで、観賞用、実用、どちらの品も扱っています」。価格も、数千円の価格帯のものから数十万円、それ以上のものまで実に幅広い。

 

「かつて大阪はガラス工芸が盛んな地域でした。その技術は各地へ伝承されていますが、この大阪でも再びガラス工芸をという声が盛り上がり、天満切子というブランドが興されました」。藤本さんの説明を聞きながら天満切子のグラスを見ると、そのカッティングや色の美しさとともに職人の物語も見えてくるかのよう。ちなみにこの天満切子のグラスは手の届く1万円台から揃い、贈り物にも喜ばれそうだ。

 

「居心地のよい身近な美術館でありたい」と藤本さんは言う。「自分は美術品とはまったく接点がないと考えていらっしゃる方も多いかもしれません。でも、思いがけない1点を見つけたり、作家の人生や思いに触れたり、好みのデザインに出合ったり……刺激のある時間をお過ごしいただけると思います」

 

一度の人生、好きを仕事に。いきいきと働いていた祖父が目標

 

 祖父と父親も美術商で、祖父の代から数えると3代目、55年目の歴史をもつという。「祖父と父は、二人とも仕事と趣味が一緒というか、この仕事を好きで続けていることがとても伝わってきていました」

 

 子どもの頃から自宅に美術品があり、錚々たる美術品を身近に見て育った。しかし、この仕事を継げと言われたことは一度もない。「私自身も継ごうと考えたことはありませんでしたね。でも、祖父や父の姿から、好きな仕事をしたいとの思いはずっとありました」

 

 大学卒業後は大手企業で営業を担当。同僚や顧客など周囲の人に恵まれていると感じながらキャリアを積み、30代前半で管理職への昇進の声がかかった。「現場でお客さんと接するのが本当に好きだったのですが、管理職になるとその第一線から離れてしまう。ありがたいお話でしたが、ゆっくり考えることにしました」。

 

 そうして10日間の休暇を取って久々の実家へ。相変わらずいきいきと仕事に向き合う祖父と父の姿を目にした。「その姿に刺激されて、1週間ほど仕事を手伝わせてもらい、お客さんのところへ一緒に回らせてもらいました。美術品をお届けする際には、丁寧にクリーニングし、磨き、包装するのですが、そんな作業に充実感や楽しさを感じ、私も美術品が本当に好きかもしれない……と感じたんです」

 

 悩みに悩んで出した結論は、会社員ではなく美術商の道。「人生一回きり。好きを仕事にしてみたかった。当時、第二子を身ごもっていた妻は『挑戦してみたらいいと思う』と快く背中を押してくれ、一度も継げと言わなかった父も『決めたのならしっかりとやれ』とエールを送ってくれました」

 

 そうして藤本さんは、美術商として一歩を踏み出した。「失敗を経験しながらも、美術品が好きだという気持ちがあるから続けてこられました。継続することで眼が養われ、顧客も増え、商売も徐々に上向きになりました」。また、「買いに行きたい、売りに行きたい」と要望が増えてきたことや今後の展開を考え、店舗を持つことを決意。1年間、多数の物件を検討した末に、富田林駅前に店を構えた。

 

「骨董品や美術品を買いたい、売りたいと思っていても、どこを訪れたらいいのかわからないという方が多いですよね。デパートの美術サロンは安心ですが、デパートゆえマージンも高い。身近な場所に、もっと気軽に鑑定や相談に行ける場所が必要だと感じました」

 

 たとえば祖父母が亡くなり、その遺品の価値が理解されないままにリサイクルショップなどに格安で引き取られたり処分されたりするケースは意外と多いという。

 

「価値あるものが無価値なものと扱われてしまうのはとても残念なこと。当店では無料で鑑定させていただきますし、価値あるものは正当な価格を提示しますが、無理に買い取ることはありません」

 

 美術品の8〜9割は、価格に相場があるという。その相場を理解していること、目利きできること、真贋を判別する力……、それらがこの仕事には不可欠だと藤本さんは話す。子どもの頃から本物に触れてきたことに加え、今はほぼ毎日、名だたるオークションに参加し、本物を数多く見ることでその力を養い続けている。「本物をより安く販売し、本物をより高く買取する、これがうちの方針です。おそらくデパートの価格の半値〜3分の2でお求めいただけます。また、自分で判断できないジャンルは、信頼できる専門家を紹介します。また、こんな絵や器が欲しいというご相談には、店にない場合にはネットワークを駆使してできるかぎり調達します」

 

 店舗オープン後、「祖父母の茶道具なのですが、みてもらえませんか」「旧家を解体するので、蔵の中をみてもらいたい」「●●の絵を探しています」……と、さまざまな相談が寄せられている。

 

「好きな美術品にかかわりながら、皆さまのお役に立てることが本当にうれしいですね。作家の思い、持ち主の方の思い、誰かには不要になったとしてもまた誰かの手にわたって大切にされていく—。その橋渡しを誠実に行っていくことが私の仕事だと考えています」 

 

 一昨年、90歳で亡くなった祖父は、病院のベッドの上でも美術品を見ていたという。「そんな祖父は尊敬する大先輩。一緒に仕事ができたことを誇らしく感じています。好きなものを大切にし、いきいきと働いていた祖父の姿は、私もこうありたいという大きな目標でもありますね」 

 

(取材・文  松岡理絵)

 

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