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ぱん処ちどり 店主 小笠原信明さん no.205

今月の人
お客さんの笑顔を近くで見て仕事ができるのが幸せ。 夕方に来ても品数が揃っているパン屋でありたい
ぱん処ちどり 店主
小笠原信明さん
1970年、高知県生まれ。柏原市在住。趣味は食べ歩き、ゴルフ、バスフィッシング。
小笠原信明さん

会社員から一念発起。パンづくりを一から学ぶ

 

 JR柏原駅から東へ徒歩約5分、マンションの1階を温かく彩るかのような可愛らしいパン屋さんが見える。小さな佇まいながら、市外からもわざわざファンが訪れるのがここ「ぱん処 ちどり」。お店に入ると、5人ほどでいっぱいになるこじんまりとした空間に、いい香りを漂わせながら、趣向もさまざまな焼きたての手作りパンたちが並んでいた。

 店主の小笠原信明さんがこの地にパン屋さんをオープンしてから、9月で早11周年を迎える。「元々はサラリーマンだったんですよ。繊維素材の営業を10年していたのですが、仕事をしながらもどこかに閉塞感があって……。もっと直接的に暮らしにかかわるような、身近な存在だと感じられる仕事がしたい。そんな気持ちが湧いてきたんです」

 

 それから、いったい自分には何ができるんだろうと考え続けたという小笠原さん。手に職のある仕事、一人で独立できる仕事、暮らしに近い仕事—。そうしてたどり着いたのが、パン屋さんだった。「おいしいパン屋さんが近所にあればうれしいですよね。僕も、お客さんの笑顔を近くで見て仕事ができたら幸せだな、と」。そう目標が定まると、会社員人生に区切りをつけた。

 

 とはいえ、この時点でパンづくりが得意だったわけではない。製パンの専門学校へ入学し、1年間通って基礎からみっちりと学んだ。その後、3軒のパン屋で働き、実践的な修業を積む。そうして独立への道が具体的になってきたのが2006年頃だった。

 

「僕は高知県出身なんですが、大学で東京へ出ました。そのまま東京で働いていたのですが、パン屋さんをするには東京は都会すぎるので、お店を出すなら関西かなと考えていたんです。京阪神エリアには高いレベルのパン文化がありますし、その周辺のまちもその影響を受けています。親戚がいるので柏原市も候補にいれて物件を見て回っていたら、しっくりくる物件に出合ったんですよね。柏原の少しのんびりとした空気感も気に入りました」

 

 もともとの思いのままに、お店の規模は、「パンをつくっている工房からも、お客さんの顔を見られる」という大きさにした。そして、「僕が思い描くパン屋さんは、ブーランジェリーという洗練されたイメージではないので(笑)」と、店名の「ちどり」は、和風の名前を希望していたことと、耳なじみのよさ、そしてどこか勢いを感じられる響きということで決めた。内装は温かみを感じられる和モダンがベースだ。そうして、2007年9月、小笠原さんは妻の直子さんとともに、暮らしの近くにあるパン屋さん「ぱん処 ちどり」を柏原市でオープンした。

 

ハード系から惣菜パンまで約70種を焼き上げる

 

 今、店頭に並ぶパンはおよそ70種。ハード系から食事パン、惣菜パンまで、多様なラインナップはさまざまな場面でパンの楽しみを増やしてくれる。「生活の中でもっとパンの食べ方を試していただきたいので、食事の時だけでなくお酒のアテやデザートなど、ライフスタイルやおいしい食べ方なども提案していけたらいいなと思っているんです」

 

 小笠原さんの一日は、朝2時40分に起床し、3時にお店に到着することから始まるという。「朝7時半の開店時にはパンを揃えていたいですから。事前に作って冷凍すると風味も落ちてしまいますし、添加物も使いたくないですので……」と言うその誠実な姿勢に頭が下がる。

 

 また、お店は18時半まで開いているが、夕方にお店に来たときにすでにパンがないという状態にならないように注意しているという。「『パン屋は社会的な存在だ』という、ある尊敬する先輩の言葉が心に残っているんです。その地域の食の一端を担っているという自負を持って、夕方に来られるお客さんにもパンを選んで買っていただけるよう、パンを揃えておかないといけない、と。ですから、夕方でもパンが売り切れたらあかんと思って焼いています。でも売り切れてしまうこともあって、その時は潔くお店を閉めます……」

 

 自家製カレーと甘辛いこんにゃくと牛すじが入った定番人気の「牛すじカレーぱん」、じっくり発酵させた生地にカレーとチーズを包み込んだ「カレーベーグル」、土日限定の「レーズン食パン」は甘みが強くてクセの少ないサルタナレーズンを、地元のカタシモワイナリーのグラッパに漬け込むなど、どのパンもその説明書きを読むだけでもワクワクしてくるものばかり。リュスティックは、クルミやイチジク、新しょうが……と定番から季節の食材を使ったものまでの種類も豊富で、来店のたびに新鮮な味わいに出合える。フランスパンの生地は、天然酵母を使って16時間以上の発酵させているので、噛むごとに旨味や甘さが広がる。

 

 お店の近くに幼稚園があるため、小さな子ども連れのお母さんもよく訪れる。「アレルギー対応のパンはないですか?」との声に応え、卵不使用のメロンパンや、乳製品不使用のパタータなどもラインナップに加わった。

 

 また、惣菜パンのアイデアは、料理の専門学校を卒業している直子さんの力によるところが大きいと小笠原さんは言う。「四季折々の食材を使いながら、いつも素敵なレシピを編み出してくれます」。そんなお二人は、休日には南河内で食べ歩きをするのが大きな楽しみの一つ。グルメを堪能するだけでなく、「気になる食材が出てきたら、パンとどんなふうに組み合わせたらいいだろうとつい二人で考えてしまいますね(笑)」

 

 オープンから11年。すっかり、地元はもとより南河内のイベントなどでも欠かせない人気店となった。「もちろんお店が大変な時期もありましたが、今、こうやって多くの方にお越しいただいて本当に感謝しています。パンを楽しそうに選んでくれる子どもたちの姿や、うちのパンを気に入ってくださり足繁く通ってくださる方の笑顔に、僕も幸せな気持ちにしていただいています。そういった感覚は会社員時代にはなかったこと。誰かが喜んでくれる、楽しみにしてくれる、そう実感できることが日々の張り合いになっています」

 

 月1回の頻度で開催しているパン教室も盛況だ。お店で出しているパンのレシピを惜しみなく提供し、パンづくりの楽しみを伝えている。「うちのパンは、特別な材料ばかりを取り寄せているというわけではなく、基本的にどなたでもスーパーなどで手に入れられる材料で作っているんです。ですから、ぜひご自宅でも再現していただけたら」

 

 幼稚園児だった子が高校生になり、高校生だった子が子どもを連れてやって来てくれるなど、11年間、このまちでパンを焼き続けてきた小笠原さん。「これからも、ここにお越しいただいたら笑顔になっていただけるような、そんなお店でありたいと思っています。そしてもちろん、ちどりらしい新商品も作っていきたいですね」

 

(取材・文  松岡理絵)

 

店舗情報→「ぱん処 ちどり」

 

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