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焼鳥 幽霊 店主 辻野宏司さん no.228

今月の人
家族やご先祖に感謝し、焼き鳥を焼き、生をつなぐ
焼鳥 幽霊 店主
辻野宏司さん
1983年、富田林市生まれ。藤井寺市在住。 趣味は食べ歩きとデッサン。もうすぐ二児の父。
辻野宏司さん

合理的なコの字型カウンター
焼き上がり1秒後に手渡したい

 

 白地に大きな「幽霊」の文字—。一瞬、この暖簾の向こうの世界をいぶかしむかもしれないが、ここは知る人ぞ知る、いま最も予約の取りにくい焼鳥店の一つだ。近鉄南大阪線「藤井寺」駅から徒歩約4分、電車に乗って訪れる遠方からのお客さんも後を絶たない。

「オープンから1年10ヵ月経ち、ようやく少しずつかたちになってきたところです」と店主の辻野宏司さんは謙虚にはにかむ。

 店内はカウンター11席と、テーブル4席。15人のお客さんでいっぱいになる、こじんまりとした居心地のいい空間だ。「すべてのお客さんに目が行き届くような規模でお店をやれたらいいなと思っていたので、この席数ぐらいがちょうどなんです」

 特徴的なのはコの字型のカウンター。焼き場を囲むようにしてぐるりと11席が設けられている。この設計は、横移動の動きを最小限に抑えられる、体力の〝省エネ〟も兼ねているという。「動線を合理的にしたかったということと、長くこの仕事を続けるためにも体は大事にしなければと……」と辻野さん。また、通常は焼き場とカウンターを仕切るガラスが上下すき間なく取り付けられているのだが、ここでは安全性を確保したうえで最小限の高さまでしか仕切りガラスはない。

「焼き鳥って、火から離すとあっという間に温度が下がるんですよ。だから少しでも早く、焼き立てをお客さんにお出ししたい。もしガラスで完全に仕切られていたら、目の前の席のお客さんに焼き上がりをお渡しするのにも大回りしないといけなくて、その間に温度が下がってしまうんです。でもこれなら、焼けたら1秒後にはお渡しできます。熱いものは熱いうちに、冷たいものは冷たいうちに召しあがっていただくというのを、最大限に実行したいんです」

 目利きした新鮮な鶏のみを仕入れ、希少部位も取り扱う。また、焼き鳥だけでなく、先付けから手の込んだ一品がテーブルに運ばれてくる。さらに、お客さんの居心地をよくしてくれるのは妻・美幸さんの細やかな接客だ。毎朝、ぬか床をチェックして仕込むという母親直伝の〝胡瓜のぬか漬け〟も美幸さんの力があってこそ。「現在妊娠中ですが出産直前まであらゆる面でサポートしてくれていて、感謝してもしきれません」

 

仕込む量は最小限
余らせずに、売り切る

 

 うどんの「きらく」を創業した祖父の代から、家業は飲食業。「子どもの頃から親の仕事を見ていて、僕もいずれその仕事に進みたいと自然と考えるようになっていました。高校生の時にファーストフード店や中華料理店などでアルバイトし、飲食店のおもしろさや遣り甲斐をさらに感じるようになっていきましたね」

 また、絵を描くのも好きで、高校では美術部に入り、主にデッサンに取り組んだ。大学は大阪芸術大学に進学してグラフィックデザインを学んだという。「親は教育には厳しかったですが、僕が学びたいことを尊重してくれて応援し続けてくれました。大学を卒業したあとは、外の飲食店で何年か修業をしたのちに、『鶏のいいとこどり 一鳥一炭』の立ち上げに携わることになりました」

 店舗のオペレーション、仕入れ、レシピ開発、調理……。飲食店を立ち上げるのには、さまざまなノウハウやアイデアが必要になるが、辻野さんはそのすべてを意欲的に学んで実践した。「オープン後は主に焼き場で焼き鳥を焼くことに没頭しました。毎日、仕込んで焼いて仕込んで焼いて……。どうすればよりおいしく焼き上げることができるのか—。それを追求することは、とにかく奥が深くておもしろいんですよ。それは今も変わっていません」

 組織で働きつつ、いつか独立して小規模な焼鳥屋を構えたいという思いはずっと持っていたという。その日に備え、技術を身につけ、コツコツと貯金もした。そして、満を持して「焼鳥 幽霊」をオープンしたのは2018年9月、36歳の時だ。「大阪市内でも物件を探したのですが、通勤時間や家族との時間なども考えて、やはり地元・南河内に決めました。ちょうど藤井寺にイメージに近い規模の物件が見つかったのも、ありがたかったですね」

 内装も外装も不要なものはとことん削ぎ落とし、シンプルで合理的なデザインに。しかし、動線や作業のしやすさは、とことん考えて取り入れている。

 その日に仕込む量は予約数プラス3組のみ。仕込みを最小限に抑えるというのはオープン時から変わらない。「鮮度のいいものだけをお出ししたいので、余らせるのではなく売り切るという考え方です。今、ありがたいことに予約でお客さまの数をある程度確定できるので、仕込みの量も計画が立てやすいですね。最近は予約時間にも余裕を持たせ、回転数も抑えています。忙しくなることで心遣いとサービスが低下しないよう、逆に20パーセント増という気持ちでいます」

 〝うまく焼く〟というのは 〝うまく仕込むということ〟だと辻野さんは言う。「これは僕の哲学でもあるのですが、うまく仕込むというのは、すべてを判断する能力をベストな状態に保ち続けるということ。つまり、睡眠をしっかりとり、健康を保ち、生活リズムを整えるということなんです。そしてそれは親に感謝すること、先祖に感謝するということにもつながると思っています」

 そして、店名を「幽霊」とした理由は—? 「店名というのは当時の僕の思いの行きつく先だったんです。光があれば影があり、器があるから水が入り……と、すべての事象は対になっているじゃないですか。焼き鳥を焼くというのは、僕にとっては生をつなぐ仕事なんです。今を生きるということの対には、これまで脈々と受け継がれてきた命がある。それはつまり、ご先祖に感謝、家族に感謝するということ。そういう意味で、この店名も対を成しているんです」

 忙しい毎日にあって、お客さんから「おいしい」と言って喜んでもらえることが日々のモチベーションになっていると辻野さんは言う。「いつか将来、もう1店舗増やしたいという目標もあるものの、やはり現場を離れたくないという思いもあります。とにかく、長く事故なく、この仕事を続けていきたいですね」

 多くの人への感謝を胸に抱き、辻野さんは今日も炭を起こし、焼き場に立ち続けている。

(ライター  松岡理絵)

 

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